<オピニョン>

トンネル内空測定の意義と方法

西山 豊

2017年3月26日更新


はじめに

 中日本高速が国土交通省に提出した資料に車両の接触事故がある[1]。ここでは、2005年9月の点検で見つかった、大月方のL断面区間での接触痕について検討してみよう。
 (1) 道路舗装面から天井板までの距離は4.7mで統一されている。
 (2) 天井板からトンネル天頂部までの距離(隔壁の長さ)は5.3mである。
 (3) 高さ4.6mの大型車両がトンネルを通過したとする。
このとき、考えられる接触のパターンを検討してみる(図1)。

 トンネルは最初に覆工コンクリート(緑色)が施工される。
 トンネル天頂部に上部CT鋼がアンカー(茶色)で取り付けられ、上部CT鋼に隔壁が取り付けられる。
 上部CT鋼は吊り金具で下部CT鋼と連動していて、下部CT鋼には天井板が取り付けられている。
 1本の上部CT鋼は長さが6mで、天井板12枚と隔壁6枚の合計18枚のPC板が取り付けられているが、それを図示すると複雑になるので省略した。
 考察を簡略化するため、隔壁1枚がアンカー1本により天頂部に取り付けられているものとする。
 隔壁と天井板を0.5枚分ずらしてあるのは、考察が天井板の連結構造と関係するからである。



図1 高さ4.7mのトンネルに高さ4.6mの車両が通過



1 接触のパターン

 笹子トンネルの利用は1日に3万台といわれる。トンネルの高さが4.7mという規制があっても、規制を無視する車両や、規制すれすれの車両が通過するのは考えられる。
 ここでは高さ4.6mの車両が天井板に接触する可能性について図2で説明しよう。

(1) 車両のバウンド
 まず、天井板が正常に施工され、トンネルの高さ4.7mが確保されているときの接触の可能性は、道路面の凸凹により車両が上下にバウンドすることである(図2(1))。
 バウンドが原因だとすれば、トンネルのすべての区間で接触事故がおこっているはずであり、大月方のL断面区間で集中的に接触があったことを説明するには無理がある。

 接触事故の起こった区間では、天井板が低下していた、正確には舗装道路面と天井板の距離が4.7mより小さくなっていた、と考えるのが自然である。

(2) アンカーの抜け落ち
 そこで、まず最初に考えられるのは、アンカーのゆるみ、脱落により天井板が低下することである(図2(2))。
 アンカーが抜け落ちれば隔壁と天井板が落下するのではと思われるが、他のアンカーが支援することで天井板は落ちない。これは、笹子トンネルに特有な「天井板連結構造」であり、フェールセーフの間違った適用である[2]
 アンカーの抜け落ちによって、天井板が低下することがあっても、10cmも低下することがあるだろうか。
 6mのCT鋼には12枚の天井板が取り付けられているので、CT鋼のアンカー16本すべてが抜け落ちなければならない。

 アンカーの抜け落ちだけで天井板の低下10pを説明するには無理がある。

(3) 覆工コンクリートの沈下
 次に考えられるのは、トンネル天頂部の低下である。覆工コンクリートのアーチ部の施工は、トンネル天頂部から上方向に生コンが注入される。
 L断面区間では道路面から天頂部までの距離が10mもあり、大断面でもあるので、覆工の巻厚不足や、沈下が当然考えられる。沈下の度合いは10cm、場合によっては20cmになることもあるという。
 施工時に覆工コンクリートが沈下したと思わせる記述が、事故調の報告書にある[3]

 「東京側L断面の国道20号との交差部及び米沢川換気所の下方にあたる区間は「偏荷重の想定される特殊区間」であると位置づけられ、施工段階において、1本のCT鋼当たり16本のボルトに加えて4箇所、合計で243箇所にて、直径24mm、長さ2550mmのロックボルト※が追加され、荷重の一部を地山に保持させるよう変更が行われていた」

 ロックボルトが追加されたのは「国道20号との交差部及び米沢川換気所の下方」である。接触事故が起こったのは、甲府側に隣接する区間である。丁寧に施工した区間は覆工が沈下せず、ロックボルトを追加しなかった区間は沈下したとも考えられる。
 覆工が沈下しているのであるから、隔壁板そして天井板は低下することになり、車両の接触事故が起こる。

(4) 隔壁の長さ調整
 覆工アーチ部が10cm沈下した場合、そのまま天井板を設置すると天井板が10cm低下する。そこで、施工現場では、工場から出荷された隔壁板を10cm短くして5.2mとすれば、天井板が低下することはないという(図2(4))。

 以上の推論を確かなものにするには、@覆工コンクリートが沈下していたのか、A隔壁の長さを調整して施工されていたのかを調べる必要がある。



図2 接触のパターン



2 トンネル内空測定の意義

 現在、天井板はすべて撤去され、ジェットファンによる縦流換気方式に変更されている。
 覆工コンクリートが沈下していたかを調べる測定環境は整っている。道路面からトンネル天頂部までの距離を総延長4417mについて測定することができ、1976年施工の状態がどのようであったかを確認できる。
 覆工の沈下がなければ、図2(3)で示した接触パターンの可能性はなくなる。
 覆工の沈下が大月方L断面の区間で顕著であった場合、隔壁板を施工するとき、長さを調節していたかどうかである。

 山梨県警捜査本部は崩落区間の隔壁や天井板をすべて押収し保管していると聞いている。
 保管された138枚の隔壁の長さを調べることは、接触事故を解明する上で重要である。  図3は接触のパターンをトンネル横断面から見た図である。(1)はアンカーの抜け落ち、(2)は天頂部の沈下、(3)は天頂部が沈下したときの隔壁の調整である。



図3 接触のパターン(横断面)


 事故調の資料集には、「いずれも、走行車線の天井板に車両の接触による擦禍痕または剥落(一部剥離片が残存)」[1]とある(図4)。
 この記述は、図3(1),(2)に示したように天井板が斜めに傾くので擦過痕は1本の筋となることと符合する。



図4 2005年9月の点検で見つかった擦過痕[1]



 結論として言えることは、図5に示すように3つの距離を計測することが、接触事故の原因を解明するためには重要ということだ。それは、道路面から天頂部までの距離、施工された隔壁の長さ、道路面から受け台までの高さの3つである。
 隔壁の長さは、山梨県警捜査本部が押収し保管している138枚の隔壁を調べれば確認できる。また、天井板はすべて撤去されているので、道路面から天頂部までの距離は、レーザー距離計を使用すれば簡単に測定できる。



図5 トンネル内空の測定



3 トンネル内空測定の方法

 道路面から天頂部までの距離は、レーザー距離計で測定が可能としたが、道路中央での計測は危険であり、計測中の通行止めが必要となる。また、1箇所の計測ではなく、トンネル総延長4417mにわたって連続的に計測し、変化を読み取ることが不可欠である。

 三菱電機が開発したモービルマッピングシステム(MMS)は、走行しながら道路周辺の3次元位置情報を高精度で効率的に取得することを可能にした。

 三菱電機と、アイサンテクノロジーの関連サイトを示しておく[4][5]

(つづく)



(参考資料)

[1] 国土交通省「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会資料集」2013年7月31日、194〜195ページ
[2] 西山豊「笹子トンネル崩落の新事実 (1) ―天井板の連結が大惨事をまねいた」、日本科学者会議、第21回総合学術研究集会(龍谷大)、2016年9月3日
[3] 国土交通省「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会報告書」2013年6月18日、2.2 施工、6ページ
[4] 三菱電機(株)、三菱モービルマッピングシステム
[5] アイサンテクノロジー(株)、アイサンテクノロジーのMMSへの取り組み

各ホームページの最終閲覧: 2016年12月27日



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(にしやま・ゆたか:大阪経済大学、数学)